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第五章 鏡迷路に映る“もう一人”

ผู้เขียน: 神夜 紗希
last update วันที่เผยแพร่: 2025-12-30 07:38:31

美咲と悠はトイレエリアから離れるために歩き出した。

また先ほどの霊に出くわすのだけは避けたかった。

デパート館内は薄暗く、ところどころ非常灯の光がぽつぽつと床を照らしている。

美咲は、這いずり女のビジュが頭にこびりついていて、

振り払おうと何度も小さく首を振った。

(もう、忘れる! 忘れたい! 忘れて!!)

自分で自分に言い聞かせながら、

美咲は必死に“楽しいこと”を考えようとする。

そういえば……と、横を歩く悠に話しかけた。

「ねぇ悠、前に“休みの日何してるの?”って聞かれたじゃん?

 悠はいつも、お休みの日なにしてるの?」

「俺はね〜、料理にハマってる!

 動画見て美味しそうなやつ作ってみたり、外国の料理作ってみたり!」

悠が楽しそうに話す。

美咲は予想外の回答に目を丸くした。

「料理?!! 意外なんだけど…! すごいね! 最近は何作ったの?」

「マッケンチーズ!」

「……んん?! 何て?!」

「マカロニ&チーズってやつで、アメリカでよく食べられる料理だよ。

 色んな人が作ってる動画が上がっててさ。作り方も様々で面白いし、とにかく美味い!」

「マッケンチーズって初めて聞いた!

 マカロニ側だけ名前崩しすぎじゃない? でも、確かに美味しそうだね!」

「実際美味しいんだよ! 結構有名だけどな〜、マッケンチーズ!」

「“マッケンチーズ”って言いたいだけに聞こえるけど……」

美咲がクスリと笑った。

「確かに」と悠も笑う。

「でもほんとマッケンチーズおすすめ!

 あと料理以外だと、休みが合ったらターボーとバドミントンやってる!」

「ターボーと仲良いなぁ! てかバドミントンて! 高校でやったのが最後だよ……」

「久しぶりにやると楽しいんだよ。今度美咲もやろう!」

悠が笑顔で明るく話すと、不思議と薄暗いデパートの雰囲気も

少しだけあたたかくなったように感じた。

美咲も、さっきまで引きずっていた恐怖を一旦忘れて、

心から楽しんで笑えるようになっていた。

ふっと上を見上げると、頭上の看板が照明に照らされていた。

『キッズわくわく鏡迷路』

その看板を見た瞬間、悠の目が輝いた。

「この鏡迷路まだあったんだ! 懐かし〜!

 小学生の時、ターボーと毎回来て、入って出てを繰り返してたんだよ!!」

「……何その遊び方、狂気を感じるのよ……」

「俺のがいつもゴール早かったんだよ。

 ちょっと入ってみようぜ!!」

勢いよく、ズカズカと鏡迷路に入っていく悠。

フードコートで怖い体験をしていない悠は、

夜のデパートになぜか妙にテンションが上がっていた。

「いや待って! 入るの?!

 鏡迷路とか、絶対こわいやつ……!?

 あたしさっき………」

さっき——足から血を流した女性に追いかけられたのに。

口に出すと鮮明に姿を思い出してしまいそうで、美咲は口をつぐんだ。

鏡迷路。昔ならともかく、今は入りたくない。

けれど——一人になるのはもっと嫌だ。

(……仕方ない……

 またさっきの女が出て来ても嫌だし……)

結局、美咲は急ぎ足で悠に続いた。

鏡迷路の中は、閉館後のデパートとはまた違う種類の薄暗さで、ひんやりとしていた。

鏡が複雑に角度を変えて並んでいる。

美咲は少しビクビクしながら、なるべく伏し目がちで悠についていく。

「うわ……夜の鏡迷路こわ……

 絶対子どもの時なら泣く……」

「懐かしい〜! ここ曲がるとすぐ出口なんだよ。」

怖がる美咲とは裏腹に、悠は懐かしさではしゃいでいる。

美咲は悠を“盾”にするように、その背中の少し後ろを歩いた。

「何で悠は怖くないのよ……」

「何回も入ってるから慣れてるんだよ。ほら、出口見えてきた。」

悠が出口を指差した瞬間——

美咲は、何気なく目の前の鏡に視線をやって、違和感に気づいた。

鏡越しに、

自分たちの頭上に“白い手”が伸びている。

美咲は思わず声を漏らした。

「……え?」

そして、ゆっくりと後ろを振り返る。

だが、何もいない。

前を見る。

鏡の中だけ、白い手が“ぶら下がっている”。

「悠、ちょ、ちょっと待って……

  何か……上……!」

「え? なに? 美咲どうかした?」

悠も振り返ろうとした、その瞬間。

鏡全体が震え——

バンッ!! バンバンバンバンッ!!

血のついた手形が、

一面に、一気に貼り付いていく。

美咲は思わず目をぎゅっと瞑り、耳を塞いだ。

「ちょっ……やばっ……!」

「美咲、大丈夫か? また何か出てる?

 ……よく見ると鏡、揺れてるか?」

悠は美咲の異変に気付き、鏡に顔を近づけて覗き込む。

美咲は、恐る恐る目を開けて悠を見上げた。

悠は、不思議そうな顔で鏡を見ている。

悠の目の前の鏡にも、手形は“ついている”のに。

鏡迷路の鏡は、

どんどん血の手形で赤く染まり始めている。

「……悠、なんも聞こえないの?! この音。

あの鏡にたくさんついてる手形、見えない?」

「手形……? 何もついてないよ?

ただ、なんか振動があるかな……ほら、鏡は普通に俺たちが映ってるだけだよ。」

悠の視線の先を、美咲も追う。

そこには、鏡迷路に設置された淡いライトに照らされた鏡。

赤く染まっていく鏡の中に二人が映っているようにしか、美咲には見えなかった。

(悠には本当に見えてないんだ……

手形が付く時の振動で鏡が揺れてる事だけは分かってるのか……)

二人の“見えている世界”が違うことを理解した美咲は、

少しだけ冷静さを取り戻し、鏡の中の“自分”を見た。

赤い手形の隙間に、微かに見える自分の顔——

そして気づいた。

鏡の中の美咲は、

ニタァ……と笑っていた。

美咲は笑っていない。

むしろ、恐怖に引いているくらいだ。

なのに。

美咲は言葉を失って固まった。

……けれど、不思議なことに、恐怖よりもほんの少しだけ好奇心が勝った。

横の鏡にも目を向けてみる。

左右の鏡に映る“もう一人の自分”は、

反対側を向いていて、目が合わない。

悠の鏡像だけ、なにも変化がない。

“鏡の異常”は、美咲だけに起きていることが分かった。

「なんで!? なんで私だけ!?」

「?! ビックリした、急に何言ってるの美咲。」

突然叫ぶ美咲に、悠は驚いた。

そして、急に「うっ」と唸り声を出してお腹を押さえる。

「なんか、ヤバい気がする……!!」

「悠にも手形見えた? こっからどうしよう?! ねぇ——」

赤い手形が四方八方に付いていく中、

美咲はどう動けば良いのか、出口に向かって良いのか、ぐるぐる悩んでいた。

悠の顔はみるみる青ざめ、

冷や汗が頬を伝っていく。

「……やばい! 行くぞ、美咲!!」

急に美咲の手を掴んで、

悠は全力で走り出した。

「わ、ちょっと、悠? 何急に?!」

「腹よ!!」

「……腹?!」

全力疾走で鏡迷路を駆け抜け、

出口に飛び出した瞬間——

ゾクッ……

背中に刺さる嫌な気配に、美咲は振り返った。

鏡迷路の中で、

“こっちを睨む目”があった。

ジトッ……とこちらを見ていた。

「……悠、鏡から何かがこっち見てる……!」

「ごめん、俺! トイレ!! 後で聞くから美咲は待ってて!!」

「嫌だけど!? ……って、もう行っちゃった……」

美咲の問いかけに返事する間もなく、

悠はそのまま走り去っていった。

残された美咲の肩に、

冷たい空気がまとわりつく。

鏡の奥から、

なにかがまだ、こちらを見ている気がしたが——

もう、美咲は振り返らなかった。

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